『チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦』岩波書店
2018年11月7日 本
大野裕之著『チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦』を読んだ。
個性的な装丁、その下部には英語で “ The Dictator ” RELEASED AND AWAITING RELEASE とある。
The Dictatorは独裁者。
確かにこの二人はこの点でも結びつく。
20世紀でもっとも憎まれた男、と言うのは些か無理があるようには思うけれど、チャップリンが『独裁者』を製作するにあたり、どのような経緯があったのかを極めて詳細に述べているのは感服もの。
この著者が集めた資料は莫大だと納得できる。
単なる読み物ではなく、こうなれば極めて読み易い学術書だと思う。
チャップリンとヒトラーの4日違いの誕生と同時期に生やし始めたあのちょび髭、この二つはよく知られた共通点、だそうだ。
もちろん、この二つは偶然の出来事にすぎない。
しかし、1914年に第一次世界大戦が始まったその年に、チャップリンはアメリカで映画デビュー、かたやヒトラーはドイツ帝国の義勇兵として従軍していた。
1918年、ドイツを含む中央同盟の敗戦でこの大戦は終結を迎えた。
後に、ヒトラーはチャップリンの映画、というよりチャップリンがユダヤ人であると信じて彼をとことん敵視するけれど、チャップリンはユダヤ人ではない。ユダヤ人かと訊かれた彼は「そうではないが、自分のどこかにユダヤ人の血が混じっていると思いたいものだね」」とこたえている。
敗戦国ドイツは民主化され、産業革命を推進し工業国となったが、ヴェルサイユ条約により軍備は制限され、多額の賠償金支払いで国民の生活は苦しくなる。人々の不満は鬱積され、そんな中ユダヤ人が経済を握っているとして大衆が反発、民主主義への反動からダーウィニズムが流布し、ユダヤ人を列島民族として淘汰しアーリア民族を守ろうとする人種理論まで現れた。
そして、天才演説家はその時流に乗った。
『独裁者』を製作するきっかけとなったのは
等々、チャップリンの言葉は、遠い昔のことだけれども、今でも大いに説得力がある。
第二次大戦直前まで英国ではナチス支持があったことは知っていたけれど、アメリカでもこうだったのは驚きだ。
ここまでが前半。
後半ではチャップリンの言う「フィルムには毒が入っている」について述べている。
例えば、「テレビに出ている人が何を言っているのか」ではなく「テレビに出ていること」そのものがメッセージであり、そこに視聴者が疑いを挟む余地は少ない。今なら「インターネットの検索で上位にくる」という事象そのものがメッセージとなり、私たちは疑うことなく信じてしまう。映像のインパクトはとりわけ強く、真実を写したとされると無批判んいそれを信じてしまう。
翻って、映像は... ...真実を簡単に偽装し、見ている人間の思考の方向を定めてしまう。
そして、ヒトラーは映像を利用した。演説を繰り返し上映し、その毒を国民に撒き散らした。
しかし、チャップリンは自らが演じた『独裁者』で「ヒトラーのイメージを決定付けた」
著者は言う、イメージは必ず現実に勝利するのだ、と。
二十世紀に生まれた二つの狂気、
二十世紀の光と影。
すごく好奇心がそそられる本でした^^
個性的な装丁、その下部には英語で “ The Dictator ” RELEASED AND AWAITING RELEASE とある。
The Dictatorは独裁者。
確かにこの二人はこの点でも結びつく。
1889年4月16日、ロンドンの貧民街で、チャールズ・スペインサー・チャップリンが生まれた。
同じ週の20日、オーストリアのブラウナウ・アム・インで、アドルフ・ヒトラーが生まれた。
20世紀でもっとも愛された男ともっとも憎まれた男が、わずか4日違いで誕生した。
51年たって、
その後、同じチョビ髭を生やした両者は、偶然と必然の絡み合うなか歴史を創る二人の天才として世界に君臨していた。
20世紀でもっとも憎まれた男、と言うのは些か無理があるようには思うけれど、チャップリンが『独裁者』を製作するにあたり、どのような経緯があったのかを極めて詳細に述べているのは感服もの。
この著者が集めた資料は莫大だと納得できる。
単なる読み物ではなく、こうなれば極めて読み易い学術書だと思う。
チャップリンとヒトラーの4日違いの誕生と同時期に生やし始めたあのちょび髭、この二つはよく知られた共通点、だそうだ。
もちろん、この二つは偶然の出来事にすぎない。
しかし、1914年に第一次世界大戦が始まったその年に、チャップリンはアメリカで映画デビュー、かたやヒトラーはドイツ帝国の義勇兵として従軍していた。
1918年、ドイツを含む中央同盟の敗戦でこの大戦は終結を迎えた。
後に、ヒトラーはチャップリンの映画、というよりチャップリンがユダヤ人であると信じて彼をとことん敵視するけれど、チャップリンはユダヤ人ではない。ユダヤ人かと訊かれた彼は「そうではないが、自分のどこかにユダヤ人の血が混じっていると思いたいものだね」」とこたえている。
P.20
第一次世界大戦後のヒトラーは、世の中に認められたいともがき苦しんでいた。<中略>同じ年の九月に反ユダヤ政党であるドイツ労働党に入党。10月16日に開かれた最初の公開集会が、ヒトラーにとって決定的な転機となった。ヒトラーは二番目の弁士として登壇。それまでの数年間、人前で話すことは愚か、他人との接触することすら稀だった30歳の男の鬱屈した人生で積もりに積もった怨念が、堰を切って留めなく溢れ出し、爆発した。
敗戦国ドイツは民主化され、産業革命を推進し工業国となったが、ヴェルサイユ条約により軍備は制限され、多額の賠償金支払いで国民の生活は苦しくなる。人々の不満は鬱積され、そんな中ユダヤ人が経済を握っているとして大衆が反発、民主主義への反動からダーウィニズムが流布し、ユダヤ人を列島民族として淘汰しアーリア民族を守ろうとする人種理論まで現れた。
そして、天才演説家はその時流に乗った。
P.18
イメージと言えは、チャップリンはキャラクター。イメージの概念を発見した人物でもある、1917年にメキシコのチャーリー・アップリンなるものまね芸人相手に訴訟を起こし、チョビ髭に山高帽という放浪紳士チャーリーのスタイルはチャップリンのものであることを司法に認めさせた。生身の人間による「キャラクター」肖像権の確立であり、のちのミッキーマウスをはじめキャラクター・ビジネスの礎を築いた。
つまり、チャップリンは、映像メディアの世界化、「キャラクター・イメージ」の発明といった、20世紀以降の世界の文化・経済・」政治にとって極めて重要な概念を創出したパイオニアの一人であることを、ここで強調しておきたい。のちにヒトラーは総統としてのキャラクター・イメージを重要視し、映像メディアを駆使して政権にたどり着くわけだが、独裁者が主戦場として使うフィールドを確立したのは、皮肉にも喜劇王だったというわけだ。
p.32
イギリス社交界からは山のような招待状がきていた。<中略>この席上で、アスター子爵夫人は面白いことを言い出す。「もしムッソリーニのような独裁権力があれば、イギリスを現在の危機から救うために何をするか?」 かねてから国際経済問題についての考えをめぐらせていたチャップリンは、「政府の規模を小さくして、無駄をなくし、物価や配当・利益を統御する経済局を設ける。貿易においては国政主義を取り、金本位制を廃止。生活程度の向上のために、労働時間を短縮して、最低賃金をあげる」とスピーチした。
『独裁者』を製作するきっかけとなったのは
P.75
「戦争の気配がふたたびただよいだした。ナチスが隆々と伸びていた。それにしても、第一次大戦とあの死に苦しみの4年間を、なんと早く忘れたものか」———チャップリンは、『独裁者』を製作する前の世相をこんな風に回想している。<中略>「株式市場で何百万ドルがもうかるときに、誰が何百万という死者のことなど考えていられるか」というわけだった。
等々、チャップリンの言葉は、遠い昔のことだけれども、今でも大いに説得力がある。
P.126
恐らく、チャップリンにとってもっとも苦しかったのは、アメリカ一般大衆から多数の脅迫の手紙を受け取ったことだろう。恐慌後の一向に回復しない経済状態い苦しむ市民たちは、ヒトラーのような強力な指導者を求めていた。ニューヨーク5番街にはヒトラー・ファンクラブなるものもあり、ドイツの独裁者はアメリカで国民的な人気を博していた。
第二次大戦直前まで英国ではナチス支持があったことは知っていたけれど、アメリカでもこうだったのは驚きだ。
ここまでが前半。
後半ではチャップリンの言う「フィルムには毒が入っている」について述べている。
例えば、「テレビに出ている人が何を言っているのか」ではなく「テレビに出ていること」そのものがメッセージであり、そこに視聴者が疑いを挟む余地は少ない。今なら「インターネットの検索で上位にくる」という事象そのものがメッセージとなり、私たちは疑うことなく信じてしまう。映像のインパクトはとりわけ強く、真実を写したとされると無批判んいそれを信じてしまう。
翻って、映像は... ...真実を簡単に偽装し、見ている人間の思考の方向を定めてしまう。
そして、ヒトラーは映像を利用した。演説を繰り返し上映し、その毒を国民に撒き散らした。
しかし、チャップリンは自らが演じた『独裁者』で「ヒトラーのイメージを決定付けた」
p.252
そもそも、世界中がヒトラーを小男だと思い込んでいるのはチャップリンのせいであり、<中略>「真実」はチャップリンのイメージ=毒が消してしまった。
著者は言う、イメージは必ず現実に勝利するのだ、と。
二十世紀に生まれた二つの狂気、
二十世紀の光と影。
すごく好奇心がそそられる本でした^^
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