『ブルックリン・フォリーズ』  新潮社
原題 “ THE BROOKLYN FOLLIES ”
ポール・オースター 著
柴田元幸 訳

オースターの作品で読んだことがあるのは『偶然の音楽』のみ、映画は『スモーク』だけ。

傷ついた犬のように、私は生まれた場所へと這い戻ってきた―ブルックリンの、幸福の物語。静かに人生を振り返ろうと故郷に戻ってきたネイサンが巻き込まれる思いがけない冒険。暖かく、ウィットに富んだ、再生の物語。



この作品は『スモーク』と同様、その舞台はニューヨークのブルックリン。
『人間の愚行の書(ザ・ブック・オブ・ヒューマン・フォリーズ)』を語る私は限られた余生を送るために当地に舞い戻ったばかりだ。
その書で私は、自分が犯したあらゆる失態、ヘマ、恥、愚挙、粗相、ドジを極力シンプルで明快な言葉で綴ろうと思う。

本書は翻訳の巧さも相まって、淀みなく読める。
登場人物の様々な個性がしっかりと形として見えるけれど、考えてみればこれがブルックリンなのだろうと想像に容易い。人種、性別、年齢、家族、LGBT、政治、宗教、忘却、別離、再会そして再生 。すべてが詰まっている物語だった。

最後に辿りつくのが惜しくて、中盤からはゆっくりページをめくった。
特に、カフカと少女の逸話は心が癒された。


そして最後の章の結末は予想外だった:
 まもなく私は退院を許された。涼しい朝の空気のなかに出ていくと、生きていることがものすごく嬉しくて、大声で叫びたい気分だった。頭上の空は混じり気なしの、どこまでも深くこの上なく青い青空だった。急いで歩けば、ジョイスが仕事に出かける前にキャロル・ストリートに着けるだろう。私たちはキッチンに座って一緒にコーヒーを飲み、母親に登校の支度をさせられながら子供たちがシマリスのように駆け回るのを眺めるだろう。それから私はジョイスを地下鉄まで送っていって、両腕を彼女の体に回し、行っておいでのキスをするだろう。
 街路に踏み出したときは八時だった。二〇〇一年九月十一日の朝八時、一機目の飛行機が世界貿易センターの北タワーに激突する四十六分前である。その二時間後、三千の焼死体から上がる煙がブルックリンの上空を漂い、灰と死の白い雲となって私たちの身に降り注ぐことになる。
 だがいまはまだ八時で、そのまばゆい青空の下、並木道を歩きながら、私は幸福だった。わが友人たちよ、かつてこの世に生きた誰にも劣らず、私は幸福だったのだ。 P.322





文学的な知識があればより面白く読めただろう。
再読したい。







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